研究概要 |
一般に、光生物のアンテナ器官中の色素分子は単独には殆ど機能せず、一定規模の集合体を形成して光エネルギー伝達の役割を果たす。従来、アンテナに関する研究には主に振動と共鳴分光法が用いられてきた。これらの手法により、現在研究の最も進んでいる緑色光合成細菌のクロロゾームアンテナについて、それを構成するc及びdタイプのバクテリオクロロフィルはある程度の秩序性をもつ会合体を形成し、その会合構造に非常な多様性をもつことが明らかになった。本研究では前述の分光法に加え、溶液中及び固体粉末中における色素会合体の構造解析に最も有効な小角散乱法を適用してみた。この手法の有効性は既に平成8年度の実験で実証された。その中で、溶液状態における二種類の色素分子(BChl c, a)について、単量体では、ギニエプロットにより回転半径(Rg)は約7-8Å,二量体では約14-15Åであることを初めて突き止めた。これらの結果は今まで推測していたものと極めて一致しており、色素が溶液中で会合しているという最初の直接な証拠となった。また、溶液中における会合体の大きさと分光学的挙動(例えば、可視領域での吸収ピークの長波長側へのシフト)と間に相関関係があることがわかった。さらに、溶液中では複数の会合種が存在し、それらが平衡状態にあり、大きいものが数百Åオーダーになることも判明した。これらの結果は、近く学術雑誌に公表されることになっている(Biochim. Biophys. Acta, 1997 in press)。 一方、ジクロロメタンから得られた固体状のサンプルの結晶性が最も良く、BChl a, cについてそれぞれ約53Åと18Åの長距離面間隔が求められている。これらの値から、色素の違いによる会合構造の相違に加え、長鎖エステル基の違いも会合構造の形成に大きく影響していることを示唆している。これについては平成9年度の実験で明らかにする予定である。
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