研究概要 |
抗生物質・免疫抑制剤に代表される生理活性物質の主要生産菌である放線菌は、原核生物でありながら、真核生物のカビに類似し、胞子→基底菌糸→気中菌糸→胞子という複雑な形態分化を示すことから、最も進化した原核生物と考えられ、形態分化の機構・制御を理解する上で極めて重要な位置を占める。この放線菌に、数 nM で形態分化と物質生産とを誘発する極微量の信号伝達物質が広く存在することを我々は明らかにしており、広範囲の遺伝子発現を一括制御する『微生物ホルモン』として注目を集めている。S.coelicolor A3(2)は、放線菌の遺伝学的基準株で、種々の変異株の取得・解析を通じて、多くの遺伝学的・生理学的知見が集積されてきている。しかし、抗生物質生産や形態分化の誘発因子であり、制御カスケードの最上位に位置する内生ホルモンに関しては、その構造はもとより、存否すらも不明であったため、制御機構を含めた信号伝達経路全体の解明を大幅に妨げていた。 1. 放線菌の遺伝学的基準菌Streptomyces coelicolor A3(2)に関して、その抗生物質生産誘導若しくは形態分化誘導に関わる内生ホルモンを検索した。 2. 本菌が生産するactinorhodin及びundecylprodigiosinに関して、その生産を誘導する因子(Scb1)が存在することを見出した。 3. 500Lの大量培養液より、酢酸エチル抽出、各種のクロマトグラフィーを経て、320μgの純品Scb1を得ることに成功した。 4. 600MHz H-NMRなどの機器分析により、その平面構造を推定した。 5. 可能な立体異性体を合成すべく、不斉合成ルートを確立し、合成品と天然物との各種比較の結果、天然物SCb1の構造を、(2R,3R,1'R)-2-(1'-hydroxy-6'-methylheptyl)-3-hydroxymethyl γ-butanolideであると決定した。
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