まず本研究では、減圧下においても大気圧下と同様にド-ナツ状の穴のあいた安定なプラズマの発生が可能なト-チの開発を行った。また、このト-チにより発生したプラズマを質量分析計と統合するための専用のインターフェースも設計・試作した。三重管構造の減圧ICP用のト-チは外側管を水冷式とし、通常のト-チよりも先端部を延長した。インターフェースは通常のサンプリングアリフィスと交換可能な構造とし、ト-チの先端部をインターフェース内に挿入・密着させることによりト-チ内の減圧を維持した。なおト-チ内を効率的に排気するために、インターフェースにはロータリーポンプを新たに外付けした。 種々の操作条件における検討から、減圧ICPが広い条件範囲で容易に生成可能なことが分かった。しかし圧力が低い場合には、放電ガスであるArに起因する分子イオンやガス中の不純物もしくは真空リ-クから生じたと思われるバックグラウンドイオンの信号強度が増大した。また、インターフェースの材質であるCuのイオン強度が高くなり、二次的な放電の増大も示唆された。この放電やArに起因する分子イオンは、シールドト-チの採用により効果的な抑制が可能であった。ト-チ内の圧力は目的元素イオンや分子イオンの強度に大きな影響を及ぼした。約130Torrの圧力におけるIのイオン強度は大気圧の場合の十数倍で、減圧ICPが非金属元素に対して高感度であることが分かった。さらに、ハロゲン元素を含む微少量の溶液をタングステンフィラメント加熱気化法により導入したところ、大気圧ICPと比較して約1桁低い検出下限が得られた。また、溶液中にNaが共存した場合についても、信号強度は多少抑制されるものの十分に実用性の範囲内であった。以上のように、本研究では減圧ICP-MSの特性を明らかにするとともに本法が非金属元素の分析に対して有用であることが確認された。
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