三次元的スペクトル情報を含有できる光学色素分子として新しい概念を盛り込み、新規色素分子の構造の設計と合成を行った。分子設計上の概念は以下の通りである。1)一分子中に、共役系を通して複数異符号の電荷を持たせることにより、様々なスペクトル変化を誘起させる。2)色素分子の共役系に直接関与する電子供与性及び吸引性の官能基を系統的に導入することにより、スペクトル変化をコントロールする。3)使い易いセンサーデバイスへの応用を考慮し、ポリマーなどへの固定化に利用できるサイトをもたせる。 ここでは共有結合による固定化サイトを考慮して、末端にオレフィン部位を持つベタイン型色素分子と、共に脂溶性側鎖を持つベタイン型色素分子を16種類合成し実験を行った。この色素を様々な溶媒系に溶解させて、分光光度計による吸光度測定を行った。又、この色素をクロロホルムに溶解させた溶媒抽出実験も行い、抽出後の油層の吸光度測定を同様な方法により行った。この色素は従来から用いられているpH指示薬と同様の、プロトン化による吸光度変化の他に、極性の変化(溶媒和)による最大吸収波長の変化も得ることができ、1つのスペクトルから多次元的な情報を得ることが可能である。 色素分子に導入する官能基を変えることにより、これらのpH特性、ソルバトクロミック特性を変化させられることがわかり、電子吸引性や供与性基の導入によるpKaのコントロールも同時に可能であった。これらの色素のpH特性、ソルバトクロミック特性の検討から、このような色素分子によるpHセンシング、協同抽出によるイオンセンシング、ソルバトクロミック特性による有機溶媒中の水分測定、アルコール類の抽出による中性分子測定など、幅広いオプティカルセンシングへの応用の可能性があることがわかった。
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