本研究は、C_<60>を中心とするフラーレン類と有機電子供与体との間の錯化合物における磁性発現機構を解明することを目的とし、理論的並びに実験的研究を総合的に実施したものである。本年度は、上記の有機電子供与体のなかで代表的なテトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(TDAE)とC_<60>との錯体磁性発現機構解明のための研究を行った。これを大別すると、以下のような成果が得られた。 (i)TDAE-C_<60>における磁気相互作用の理論的研究を実施し、2チャンネル-シェリントン・カ-クパトリックモデルを用いて極小磁場下におけるTDAE-C_<60>の磁化の温度依存性を解析した。(ii)TDAE-C_<60>における磁化曲線の精密測定のための実験的研究を実施し、SQUID磁化率測定によって弱磁場磁化及び磁化率を精確に測定した。その結果、非可逆的磁化効果及び磁場冷却磁化を初めて観測することに成功した。(iii)TDAE-C_<60>における強磁性発現に関するC_<60>分子間の配向性の影響に関する理論的研究を実施し、この配向性の様式によって、C_<60>分子間には反強磁性的及び強磁性的相互作用が規則的に現われることが初めて理論的に裏付けされたかたちで明らかになった。(iv)TDAEの中性状態並びにカチオン状態における電子状態と振動構造に関する理論的研究を実施し、TDAEの中性、モノカチオン、及びジカチオンについて、初めて非経験的分子軌道法を用いて解析することに成功した。得られた振動構造とラマンスペクトル観測結果の比較から、固相TDAE-C_<60>及びTDAE-C_<70>ではTDAEはモノカチオンとして存在することが明らかとなった。
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