錠剤状多孔質アルミナの細孔空間中で、フッ化銀及びヨウ化ナトリウム水溶液を異なる方向から浸透させて、その中央付近で両水溶液を反応させ、溶解度の極めて小さいヨウ化銀を堆積させることにより、ヨウ化銀-アルミナ系コンポジットを作製した。細孔空間中の堆積により、ヨウ化銀とアルミナの界面が形成されること、堆積する粒子の大きさが細孔径の大きさにより制限されること、或いは成長過程の各段階で組織や構造に差が生じることなど、水溶液同士の直接混合による自由成長にはない因子が導入されるので、これらの因子を考慮に入れた試料の分析と解析を行った。 初期段階では、溶解度が非常に小さいヨウ化銀が細孔空気間中で瞬時に堆積することが判明した。次の段階では、水溶液同士の直接的な接触が断たれるので、堆積ヨウ化銀中を銀イオンが移動し、ヨウ化ナトリウム水溶液側でヨウ化物イオンと出会ってヨウ化銀を形成すると堆積された。実験的には、堆積したヨウ化銀のヨウ化ナトリウム側へ一方向的に堆積が進行することが判明し、堆測したモデルが正しいことが確かめられた。次に、一方向へ選択的な成長では、成長過程の各段階で組織や構造が異なることが推測されたので、堆積した粒子の形態・生成相・配向度・結晶子径などの空間的な分布を調べた。走査型電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡による観察を併用し、さらにコンポジット試料を細かくセクショニングした試料に関するX線回折を行い、堆積した粒子の構造と形態の空間的な分布を求めた。 その結果は、次のように要約できる。(1)初期堆積部分の粒子は全く粒子配向を示さなかったが、それに引き続いて堆積した部分の粒子は配向性を示し、堆積の進行と共に次第に配向度が増加してほぼ一定値に達して飽和した。(2)配向度はヨウ化銀の(001)と(hh0)方向の結晶子径の比に依存し、その比に配向度が強く依存することが明らかになった。(3)水溶液の温度を変化させることにより、結晶子径の比とその空間的な分布が制御できることが分かった。(4)ヨウ化銀が成長するヨウ化ナトリウム水溶液側の温度は、細孔空間中の堆積物の占有率に大きく影響し、温度が高くなると占有率が減少することが分かった。 以上により、多孔質アルミナの細孔空間中に堆積させたヨウ化銀粒子に関して、水溶液の濃度と温度は、その組織と構造の制御因子として使えることが明らかとなった。
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