(1)α-およびβ-シクロテキストりン(CyD)、(2)エチレングリコールとの複合体、(3)アダマンタンカルボン酸との複合体、および、(4)α-CyDの一級水酸基側にグルコース1個を付与したG1-α-CyDのトンネル顕微鏡(STM)像を得ることに初めて成功した。劈開したグラファイト上にそれぞれの水溶液を滴下し、乾燥させて調製した試料を、Pt/Irの探針を用いて、大気中でSTM観察した。グラファイト上では、2次元成長によるCyD複合体間の相互作用を反映した構造が形成されるため、STM観察によりCyD複合体の分子間相互作用に関する情報を分子レベルで得られることが期待される。CyD単独の場合には配列軸がほぼ直交する構造が得られたが、エチレングリコールを包接させた場合には、配列軸が60°で交わる3回対称の配列構造が観察された。また、G1-α-CyD複合体の場合も同様に3回対称構造であるが、非常に密で安定しており、分子間の相互作用が強いことが示唆される。STM像にG1-α-CyDのモデルを重ねてみると、分岐グルコースがCyD底部の水酸基部分(二級水酸基)と密な位置関係にあることから、分岐グルコースと二級水酸基との間の水素結合によって、強い相互作用が錯体間に働いているものと考えられる。一方、アダマンタンカルボン酸との複合体では、乱れた配列構造が観察された。ゲストがα-CyDの空洞部を塞ぐ形で包接されるため、分子間相互作用が弱くなるためである。アダマンタンカルボン酸がほほ完全に包接されるβ-CyDでは、他の複合体と同様に、安定した3回対象の配列構造が得られた。これらの結果を発展させ、理論計算や反応過程と対比させることにより、CyDによる選択的合成触媒機構がさらに明確に出来るものと考えられる。
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