本基盤研究により、さまざまなゲストを含む系において、シクロデキストリン分子の鮮明なSTM像を得る条件を確立することに成功した。これは、シクロデキストリン複合体のSTM観察の世界最初の成功例である。さらに、これらの像を詳細に解析することにより、シクロデキストリンが特異的な自己会合特性を持つことを見出した。こうして、シクロデキストリンの特異的機能を解明し、また、さらに高機能なシクロデキストリン集合体を設計するために極めて重要な基礎的知見を得ることが出来た。具体的には、一連のシクロデキストリン系のサンプルをトンネル顕微鏡(STM)により観測し、いずれの場合にも、鮮明なシクロデキストリン分子像を観測することに成功した。その主要なものは、(1)α-およびβ-シクロデキストリンそのもの(正確には水との複合体)、(2)エチレングリコール(あるいはエチレングリコールのオリゴマー)とシクロデキストリンとの複合体、(3)アダマンタンカルボン酸とシクロデキストリンとの複合体、(4)α-シクロデキストリンの一級酸基側にグリコース1個を結合したα-シクロデキストリン誘導体、(5)我々がすでにシクロデキストリンによる選択的合成媒介作用を見出したフェノール/シクロデキストリン系の複合体、および(6)シクロデキストリンによる選択的触媒作用において形成されるクロロホルム/シクロデキストリン複合体などである。こうして、シクロデキストリンの分子像を、直接的に観測することが可能となった。これらの結果を発展させ、理論計算や反応速度論的検討の結果と対比させることにより、シクロデキストリンによる選択的合成触媒機構がさらに明確に出来るものと考えられる。
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