研究概要 |
ESR(電子スピン共鳴)スピンラベル法を用いた不均一系過酸化反応の非侵襲的な測定法の開発は将来さらに開発が進むであろう機能性高分子など高機能材料の酸化劣化の防御と同時にミクロな不均一系での抗酸化物質の開発などを意図した物であり、その他ドラッグデリバリーシステムなどで用いられる人工脂質二分子膜、ひいては生体膜での脂質過酸化反応の研究に大きく寄与できると確信している。以下にこれまでに得られた結果をまとめる。先ずホスファチルジルコリンなどを用いた人工二分子膜(リポソーム)におけるラジカル連鎖反応を介した過酸化反応をスピンラベル剤(5NS,10NS,16NS)を用いて定量的に計測することを試みた。過酸化反応の開始剤として水溶性アゾ化合物AAPHを用いESRによりリポソーム膜中に組み込まれた上記ラベル剤のシグナル強度の変化を計測し、過酸化脂質の生成との比較から、この方法でリポソーム過酸化反応の進行をほぼ定量的に追跡できることを確信した。次に実際の生体膜への適用を試みた。ヒト白血病細胞THP-1又はU937にラベル剤5NS,16NSを薄膜法によってその細胞膜に組み込んで様々な活性酸素種による過酸化反応とシグナル強度の変化を計測した。先ずAAPHを開始剤とした場合膜中のラベル剤5NSは16NSに比してよりすみやかに減冗、膜表面附近のラジカル量が膜内部のそれより大きいことが明らかになった。理由のひとつとして膜外部のラジカルを膜中5NSの直接の反応が考えられた。次に活性種として代表的な活性酸素種である過酸化水素を用いた場合少なくともこれら二種のラベル剤の減少速度はバックグランドのレベルを大きくは超えず、形質膜での直接の過酸化反応の誘導はみられないと考えられた。
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