含窒素複素環化合物に有用な官能性炭素置換基を高効率的に導入する手法の開発は、様々な生理・薬理活性を有する複素環化合物あるいは医薬品を合成するためには大変重要であり、今までに多くの研究が行われてきた。 本研究者は今までに種々のスズ反応剤と塩化アシルで活性化された様々な含窒素複素環化合物との反応を調査し、有用な炭素官能基を高選択的に導入する手法の開拓を行ってきた。本研究では、スズ反応剤に比べて取り扱いが大変容易で、かつ環境負荷の小さいケイ素反応剤を用いて有用な炭素置換基の導入法の開発について調査した。 ケイ素反応剤はスズ反応剤に比べはるかに反応性が低いため、含窒素複素環を塩化アシルのみで活性化しただけはほとんど反応せず、この点を如何にして克服するかが大きな問題である。実際、アリルトリメチルシランをクロロギ酸フェニルでアシル化したキノリニウム塩と反応させたが、ほとんど付加反応は進行しなかった。そこで、対アニオンである塩化物イオンをより求核性の小さい対アニオンに置換すればキノリニウムイオンの求電子性が大幅に向上すると考えて、銀トリフラートを加えたところ、2時間でほぼ定量的に付加生成物が得られることを見出した。その他、銀テトラフルオロボレート、過塩素酸銀でも同様な反応促進効果が認められた。さらに、興味深いことに、0、1等量という触媒量の銀トリフラートを用いても、反応時間は長くはなるものの、高収率で付加生成物が得られることがわかった。その他のトリフラート塩としてリチウム、ナトリウム、トリメチルシリル塩を触媒量用いても良好な収率で付加生成物が得られた。また、キノリン環上のシアノ、エステル、ホルミル、ニトロ基等の官能基が反応を阻害せず、高い官能基選択性を示した。さらに、イソキノリンを用いた反応では、2等量のアリルシランが反応し、ベンゾイソキヌクリジン骨格が生成することを見出した。
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