カルベン型分子の二原子価欠損特性と、そこに具備された求電子性・求核性の両極性(アンビフィリシティ)を段階的に制御して、分子骨格形成に必要な結合を連続的かつ収束的に形成する合成反応開発の研急において、下記の研究実績を上げることが出来た。 (1)カルベン型分子(カルベンおよびカルベノイド)から形成されるオニウムイリドのモデルとしてエーテル型酸素イリドを設定し、その極短寿命中間体を適度に安定化して合成への適用を可能にするために、中間体における多元素効果を考案した環状アセタールの分子内反応を設計した。これを中・大員環エーテル骨格の高効率で高収束的な合成手法の開拓へとつなげることができた。特に、これまでの研究で定法としたプロトン性求核試薬添加に代わり、クロロシラン類を環状アセタール由来のビシクロ酸素イリドに作用させると、触媒量のクロロシランで効率よく環拡大が進行し、中・大員環エーテル骨格へと交換されることを見いだした。 (2)これまで報告がないエーテル型酸素イリドのスペクトル測定を試みた。高エネルギーかつ短寿命のエーテル性酸素イリドに、スペクトル測定が可能な程度の寿命を持たせる安定性を、多元素効果を利用して付与するために、多様な環の大きさと適切な置換基配置を持った環状アセタールあるいはオルトエステル置換ジアゾカルボニル化合物を設計した。これらを不活性溶媒中でレーザー・フラッシュ光分解法を用いてカルベンを発生させたが、形成されている筈の酸素イリドの分光学的測定には成功しなかった。しかし分光学的成果に代わって、上述の環拡大反応と類似の反応が環状エーテル系よりも効率高く進行することを新たに見いだした。
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