グリコシダーゼ阻害物質は生体機能の解明に役立つばかりではなく、糖鎖工学の発展にも寄与するものである。本年度の第一の目的は、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼの阻害物質であるナグスタチンの工業的合成法を確立することにある。第二の目的は、殺ダニ物質グアラマイシンの工業的合成法を確立することにある。まず、安価な糖質を不斉炭素源として用い、それぞれの含窒素糖質部分を合成して後、必要な官能基の導入および立体配置の整備を行って目的の化合物を合成した。 1) ナグスタチンの合成:L-リボフラノースを原料にして、イミダゾールの分子間求核置換反応により、L-アロ型およびアルトロ型中間体を合成した。これらの相当するスルホニル誘導体のイミダゾール部分の分子内求核置換反応により、ナグスタチンの基本骨格を合成した後、側鎖部分の導入を行い、ナグスタチンの全合成を完了した。工業的合成法としても利用できる。即ち、モノブロモ体をアリル誘導体に導き、ジヒドロキシル化を行った後、酢酸残基を導入し、エステル体を得た。このアジド化を行い、立体配置の保持あるいは反転を伴って、同一のアジド体に導いた。これは、N-アセチル体を経て、天然物と完全に一致するナグスタチンに導かれた。 2) グアラマイシンの合成:まず、L-グルカ-ルからグアラマイシンのアグリコン部分が合成された。即ち、そのアジド基を有するアルデヒドにWittig反応して得られるシス-オレフィンのシス-ジヒドロキシ化により、目的の中間体トリオールを得た。これは、直鎖のアルコールの分子内環化反応を経て、ピロリジン誘導体に導かれ、さらに、相当するδ-ラクタムのビス-ベンジリデン誘導体(グリコシルアクセプター)に導かれた。一方、その二糖類部分は、メチルD-ガラクトシドと臭化D-グロサミニル誘導体から合成された。これと上述のアクセプターとのグリコシル化は、ほとんど定量的に目的のα-グリコシド体を与え、最終的にグアラマイシンを与えた。
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