当該最終年度は平成8年度までに見い出だしたKempのトリカリボン酸から誘導した、分子内にキラルな2-オキサゾリンを持つイミド化合物によるリチウムエノラートのエナンチオ選択的プロトン化反応について、さらに実用性を高めるために反応システムの再検討をおこなった。その結果、顕著な溶媒効果と金属塩の添加効果を見い出し、特にリチウムエノラートをエーテル溶媒中で5当量の臭化リチウム存在下に発生させたものを用いてプロトン化すると高いエナンチオ選択性が得られることが分かった。一方、光学活性シクロヘキシルエチルアミンから誘導したキラルアミド基を持つイミド化合物が、2-メチルシクロヘキサノンのリチウムエノラートのプロトン化反応において、特に有効であることがわかった。中でも、Kempのトリカルボン酸に由来するシクロヘキサン環部分のアルキル置換基がメチル基の場合とシクロヘキシル基の場合とでそのプロトン化生成物の絶対配置が逆となり、しかもそれぞれが85%ee以上の高いエナンチオ選択性で得られることがわかった。これらのキラルイミド化合物は、さらに分子内に不斉炭素を持つキラルなエノラートのジアステレオ選択的プロトン化反応にも効果的なプロトン化剤であることがわかった。例えば、(-)ーメントンのリチウムエノラートに対して、キラルイミド化合物の両エナンチオマーを作用させることで、トランス体の光学活性メントンをそれぞれ選択的に作り分けることができた。また、キラルアミド基を分子内にもつイミド化合物を触媒量とかさ高いフェノールを等量用いた触媒的不斉プロトン化反応において、これまで触媒的プロセスで20%ee以上のエナンチオ選択性をを得ることが困難であった2-メチルシクロヘキサノンのリチウムエノラートが79%eeと高い光学純度でプロトン化されることを初めて見い出した。
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