エノラート類の不斉プロトン化反応は、光学活性なα-置換カルボニル化合物の効率的合成手法として、ここ10数年にわたり国内外で精力的な研究が展開されてきた。これまでに数多くのキラルなプロトン化剤を用いた研究が報告されているが、高いエナンチオ選択性の獲得に成功した例の多くが、限られた基質にのみ有効である場合が多く、一般性に富んだキラルなプロトン化剤はこれまでのところ合成されていない。本研究はこれらの問題点を克服した真に実用的な不斉プロトン化反応の開拓を目的とす。具体的には、同一反応剤で基質に対する広い一般性をもち、100%の不斉収率が期待できる新しいプロトン化剤の開発を目指す。 不斉プロトン化反応の開発にあたり、プロトン化剤についての予備的研究を行った結果、これまでにKempのトリカルボン酸から誘導した、分子内にキラルな2-オキサゾリンを持つイミド化合物が2-アルキルシクロアルカノン類のエノラートのプロトン化剤として効果的であることがわかった。この反応には顕著な溶媒効果と金属塩の添加効果が見られ、特にリチウムエノラートをエーテル溶媒中で5当量の臭化リチウム存在下に発生させたものを用いてプロトン化すると高いエナンチオ選択性が得られることがわかった。一方、キラル部分に関して、2-オキサゾリンを持つイミド化合物に加えて、他のヘテロ官能基を持つイミド化合物についてもスクリーニングを行ったところ、光学活性シクロヘキシルエチルアミンから誘導したキラルアミド基を持つイミド化合物が、2-メチルシクロヘキサノンのリチウムエノラートのプロトン化反応において、最も高いエナンチオ選択性を与えることがわかった。中でも、Kempのトリカルボン酸に由来するシクロヘキサン環部分のアルキル置換基がメチル基の場合とシクロヘキシル基の場合とでそのプロトン化生成物の絶対配置が逆となり、しかもそれぞれが85%ee以上の高いエナンチオ選択性で得られることがわかった。これらのキラルイミド化合物は、さらに分子内に不斉炭素を持つキラルなエノラートのジアステレオ選択的プロトン化反応にも効果的なプロトン化剤であることがわかった。また、キラルアミド基を分子内にもつイミド化合物を触媒量とかさ高いフェノールを等量用いた触媒的不斉プロトン化反応において、これまで触媒的プロセスで20%ee以上のエナンチオ選択性を得ることが困難であった2-メチルシクロヘキサノンのリチウムエノラートが79%eeと高い光学純度でプロトン化されることを初めて見い出した。
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