研究概要 |
炭素-炭素結合の生成に較べて、遷移金属錯体で炭素-炭素結合を切断することは容易ではない。本研究では、ロジウム(I)錯体触媒を利用して、有機合成指向性の強い触媒的炭素-炭素結合切断反応を開発することを目的として研究を行なった。シクロブタノンにロジウム(I)錯体を作用させると、カルボニル炭素とα位炭素間結合への挿入が起こることを見出している。一旦遷移金属が炭素-炭素結合に酸化的付加すれば、σアルキル錯体が生成するので、この中間体を利用して合成反応の開発を試みた。まず、スピロ型シクロブタノンに対し、ロジウム(I)錯体触媒を作用させると、酸化的付加に続いてβ炭素脱離が起こり、最後に還元的脱離により、シクロヘキセノンが得られた。この反応は、炭素-炭素結合の連続二重切断を行っている点で興味深い。 β位にエーテル結合を持つシクロブタノンを用いると、炭素-炭素結合の酸化的付加に引続きβ酸素脱離が起こり、鎖状エステルが選択的に得られた。まずカルボニル基に隣接した炭素-炭素結合が酸化的付加し、続いてβ酸素脱離が起こり、最後に還元的脱離により鎖状エステルが生成したものと考えられる。詳しい条件検討の結果、用いる二座ホスフィン配位子の鎖長により生成物が全く異なることがわかった。即ち、配位子としてdppeの代わりにdpppを用いた場合には、炭素-炭素結合と炭素-酸素結合の連続切断後、直接還元的脱離せずにendoモードで再環化し、シクロペンタノンを選択的に与えた。さらにdppbを用いた場合は,炭素-炭素結合の酸化的付加後、直接脱カルボニル化が起こり、シクロプロパンが選択的に生成した。上記の炭素-炭素結合切断反応は有機合成指向性の強いものであり、遷移金属への酸化的付加により炭素-炭素結合を切断できれば、新しい形のしかも有用な合成反応の開発が可能であることを示唆している。
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