パラジウム錯体は汎用性の高い触媒であり、毒性もなく、取扱が簡単であるにもかかわらず、決定的な不斉触媒がない。パラジウム錯体は、配位座が少ないため単座型配位子が望ましいが、単座型では効果的な不斉環境を形成することが難しく、研究開発が遅れている。 パラジウム触媒に適した単座型不斉触媒の開発及び実用的大量合成可能な不斉触媒反応への展開を目的として研究を進めている。計画している新規不斉配位子は、軸不斉およびキラル補助基の両方もしくは複数のキラル補助基を一つのリン原子上に有するバイナリー型である。一般的に、不斉反応では二種類の不斉源の相乗的効果が重複不斉反応として良く知られている。この相乗効果が配位子においても働くのではないかを念頭に置き、より理想的な不斉環境を創出することを企図している。 今年度は、二つの同じキラル補助基が一つのリン原子上に存在する単座型不斉配位子を合成した。キラル補助基としては、容易に入手できる酒石酸から導かれる化合物を用いた。このものを用いて、ヘック反応を中心とするいくつかのパラジウム触媒反応に適用してみたが、いままでのところ既知不斉配位子をしのぐ結果は残念ながら得られていない。ほとんどの反応途中でパラジウムブラックがデポジットしてくることから考えて、配位子が大きすぎ、パラジウムに十分強固に配位できなかったのではないかと考えられる。今年度の結果を生かし、つぎの単座型不斉配位子の合成を次年度に行う予定である。
|