光合成系の電子伝達タンパク質の一つであるフェレドキシンは、カチオン性の人工脂質にイオン交換的に取り込まれ、グラファイト電極上との直接電子移動反応が可能であることを前年度報告した。本年度は、脂質膜フィルム中でのフェレドキシンの電極反応を、溶液中でのそれと比較検討し脂質膜の特性を明らかにすることを目的として定量的な検討を行った。その結果、イオン交換的に取り込まれた脂質膜中のフェレドキシンは、溶液中の濃度に比べて20-40倍濃縮されることがわかった。また、脂質膜中のフェレドキシンの拡散係数は約3×10^<-10>cm^2/s、電極との不均一電子移動反応速度定数は約1×10^<-4>cm/sであることがわかった。電子移動反応速度定数は、溶液中のそれと比べて脂質膜の方が約1オーダー小さいこと、さらに拡散係数は脂質膜の方が3オーダーも小さいことが、初めて明らかになった。また、拡散係数は脂質膜の相転移に大きく影響を受け、相転移前後で拡散係数は2-3オーダー変化することが定量的にわかった。、フェレドキシンの代わりに、アニオン性脂質フィルムに取り込まれた、呼吸鎖系の電子伝達タンパク質であるチトクロームcに対しても類似の挙動が観測された。本研究は金属タンパク質の電子移動反応場としての脂質二分子膜が形成するミクロな反応環境を、定量的に解明できたことを意味し、金属タンパク質を素材とする新しい分子機能電極開発に対して一つの指針を与えるものである。
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