研究概要 |
多くの有機合成や高分子合成において、水の存在は副反応を誘引し目的とする生成物の収率を低下させることは衆知の事実である。特に、重縮合や重付加反応などのイオン反応を用いた重合系では、水の存在は生成するポリマーの分子量の低下を引き起こす原因となっている。従って、高分子合成において水あるいは少量の有機溶媒を含む水溶液を反応溶媒として広く利用する事が可能となれば、高分子合成において新しい進歩をもたらすことになり、高分子工業の観点からは、製造工程の安全性の向上、プロセスの簡素化による製造コストの削減、環境保全の向上などが期待できる。 本年度の研究では、この可能性について明らかにするために、始めに水および有機溶媒を含む水溶液中での、1)ビスオキサゾリン化合物とジチオール類との重付加反応によるポリ(アミドースルフィド)類の合成、および2)縮合剤として1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)を用いたジカルボン酸とビスアルキルハライド類との重縮合反応によるポリエステル類の合成について検討を行った。ビスオキサゾリン化合物とジチオール類との重付加反応をNMP,NMP/水混合溶媒、および水中で行った結果、重合速度は水の量が増加するにつれて遅くなるが、いずれの反応系においても重付加反応がよく進行し、目的とする高分子量のポリ(アミドースルフィド)類の合成が可能なことが判明した。また、縮合剤として1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)を用いたジカルボン酸とビスアルキルハライド類との重縮合反応をDMSO,DMSO/水混合溶液、および水中で行った結果、重合速度は水の量が増加するにつれて遅くなるが、いずれの反応系においても重付加反応がよく進行することが明らかとなった。さらに興味ある結果として、DMSO中での反応よりもDMSO/水混合溶媒、あるいは水中での反応に方が高分子量のポリエステルが得られることも明らかとなった。この理由として、上記の重縮合反応をDMSO中で行った場合には副反応としてDMSOによるビスアルキルハライドの酸化反応が起こったが、水を含む反応系では副反応としての酸化反応が抑制されたためと考えられる。
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