研究概要 |
多くの有機合成や高分子合成において、水の存在は副反応を誘引し目的とする生成物の収率を低下させることは衆知の事実である。特に、重縮合や重付加反応などのイオン反応を用いた重合系では、水の存在は生成するポリマーの分子量の低下を引き起こす原因となっている。さらに、通常は有機化合物や高分子化合物の酸化反応は有機溶媒中で行なわれているが、これらの酸化反応の際に、副反応として連鎖誘発反応が起こった場合には爆発などの危険が伴うこともある。従って、高分子合成において水あるいは水溶液を反応溶媒として広く利用することが可能となれば、高分子合成において新しい進歩をもたらすことになり、高分子工業の観点からは、製造工程の安全性の向上、プロセスの簡素化による製造コストの削減、環境保全の向上などが期待できる。平成8年度は、1)ビスオキサゾリン化合物とジチオール類との重付加反応によるポリ(アミドースルフィド)類の合成、および、2)縮合剤として1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)を用いたジカルボン酸とビスアルキルハライド類との重縮合反応によるポリエステル類の合成について検討を行い、これらの反応が水中および水溶液中でよく進行し、目的とする高分子量のポリマーを得ることに成功した。 平成9年度は、高性能の新しい高分子材料の創製の観点から、平成8年度の研究でビスオキサゾリン化合物とジチオール類との重付加反応により合成に成功した、ポリ(アミドースルフィド)の水中および水溶液中での選択的酸化反応による、ポリ(アミドースルホン)の合成について検討を行った。ポリマーの酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、過沃素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどを用いて検討を行ったが、スルフィド結合の酸化反応の速度、高分子鎖の酸化分解の抑制などの観点から、この反応系では、過沃素酸ナトリウムが最も適した酸化剤であり、次が過酸化水素であることが判明した。さらに、この反応により合成されたポリ(アミドースルホン)のガラス転移温度は165℃と原料ポリマーであるポリ(アミドースルフィド)がガラス転移温度(125℃)と比較して40℃程度上昇することが判明した。このことから、水中および水溶液中での選択的酸化反応により合成されたポリ(アミドースルホン)は新しい高性能の高分子材料としての活用も期待できる。
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