多くの有機合成や高分子合成において、水の存在は副反応を誘引し目的とする生成物の収率を低下させることは衆知の事実である。特に、重縮合や重付加反応などのイオン反応を用いた重合系では、水の存在は生成するポリマーの分子量の低下を引き起こす原因となっている。さらに、通常は有機化合物や高分子化合物の酸化反応は有機溶媒中で行われているが、これらの酸化反応の際に、副反応として連鎖誘発反応が起こった場合には爆発などの危険が伴うこともある。従って、高分子合成において水あるいは水溶液を反応溶媒として広く利用することが可能となれば、高分子合成において新しい進歩をもたらすことになり、高分子工業の観点からは、製造工程の安全性の向上、プロセスの簡素化による製造コストの削減、環境保全の向上などが期待できる。 平成10年度は、1)水中で、ビスフェノール類とビス(4-クロロ-3-ニトロフェニル)スルホン(BCNPS)との重縮合反応によりポリエーテル類の合成について検討を行った。DMAcと水との混合溶媒中で、縮合剤としてDBUを使用した、ビスフェノール-A(BPA)とBCNPSとの重縮合反応では、いずれも対応するポリエーテルが生成するが、混合溶媒中の水の量が増加するにつれて重合速度は遅くなり、ポリマーの収率は低下した。そこで、重合溶媒に水を用いた場合の反応条件について詳細に検討を行い、BPAと2倍量のBCNPSとの反応を2倍量のDBUを用いて60℃で48時間重合を行った場合、高収率で分子量1万以上のポリマーが得れた。2)芳香族ジチオールとBCNPSとの重縮合反応によるポリスルフィドの合成についても研究を行った。その結果、同様の反応条件下で、ジチオールとBCNPSとの反応では高収率で高分子量のポリスルフィドの合成に成功した。
|