研究概要 |
異なる生育時期における低水温が水稲個体油群の生育・収量に及ぼす影響を明らかにするために,栄養生長期(以下,栄養期),生殖生長期(生殖期),登熟期の3時期を対象に圃場条件下で冷水掛け流し処理を行った。供試品種はきらら397で,処理日数は各区の発育日数に応じて20〜33日とした。処理期間中の平均水温は各時期それぞれ18,18,16°Cで,無処理区との温度差は4〜6°Cであった。出穂期までの発育日数は水温によって大きく変動し,1°Cの水温低下に対して栄養期では1.8日,生殖期では1.6日の遅延が認められた。収量は,栄養期および生殖期処理区で無処理区を有意に下回り,その減収程度は栄養期区では14%,生殖期区では92%と生育時期により大きく異なった。減収の主因は栄養期処理が穂数不足,生殖期処理では稔実および登熟歩合の低下であった。一方,登熟期処理では有意な減収は認められなかった。乾物生産はいずれの時期も処理によって抑制されたが,その程度は栄養期で大きく,収量が激減した生殖期では逆に最も小さかった。栄養期,生殖期においては葉面積が個体群生長速度を大きく支配し,純同化速度には大差が認められなかったのに対し,登熟期においては純同化速度が明らかに抑制された。栄養期,生殖期処理区の平均光合成速度は無処理区とほぼ同程度であったが,処理期間中には大きな変動が認められ,処理開始後2週間以内には気孔コンダクタンスの低下に伴い,光合成速度が抑制されたものの,2週間目以降には気孔コンダクタンスが回復するとともに葉面積当たりの葉身窒素含量が増加することによって,処理区においてむしろ高い値が得られた。一方,登熟期処理については,純同化率と同様に処理区の光合成速度が常に無処理区よりも低く推移した。
|