研究概要 |
1.「作物生産力の解明」では,子実作物の登熟初期における個体群のエネルギー収支中において重要な穂重増加速度(PGR,g/m2/day)を構成する乾物増加速度(CGR)および転流速度(TR)の具体的支配要因について解析を行った.吸収光エネルギー量と真の光合成速度(Pg)の間には比例関係が認められることから,CGRは変換効率α・bで与えられる常数と吸収光エネルギー量との積により近似することができた.TRはCGRが大きいと小さくなり,穎花数が多いと大きくなった.いっぽう,夜間の暗呼吸速度の変動パターンに関与する要因を解析した結果,これまで変動しにくいと考えられてきた暗呼吸のmorning riseが,日長,窒素の利用形態などの環境条件により大きく変動する可能性のあることが明らかになった. 2.「生物多様性の解明」では,作物の根が土壌の生物相におよぼす影響について研究を行った.コムギ畑での現地調査,トウモロコシを用いた圃場実験,および数理モデルによる解析によって,土壌の粗孔隙によって作物の根系の分布が影響を受け,とくに下層土において,管状で連続性の高い生物性孔隙(biopore)中に根が集中することを明らかにした.生物性孔隙内の環境は土壌マトリクス部分と著しく異なることから,生物性孔隙中を伸長する根の根圏には特異な生物相が形成されると考えられた. 3.「微生物の作物生産への活用」に向けて,栽培植物および野草のリン酸欠乏に対する反応を比較するために,リン酸第一鉄を添加した条件およびリン酸を加えない条件での水耕栽培を行った.栽培植物ではリン酸第一鉄添加によって乾物重で見た生長が100から130%促進されたが,野草においては200%以上の生長促進が観察され,野草はリン酸欠乏に対する優れた能力を有することが明らかになった.
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