本研究は、都市のアノニマスデザインが円熟し、デザインがそれぞれの場所の格に応じ、しかも質が高かった江戸時代後期の江戸を中心に都市の水辺を取り上げ、(1)水辺のタイプに対応したデザインタイプの原則、(2)立地に応じたデザイン規範、(3)水辺が秩序を保ちつつ多様であるための都市全体のルール、を明らかにすることを目的とした。方法は、江戸等の都市の図絵・絵画等から江戸期の都市の水辺事例を収集し、切絵図や文献および現地調査から各事例の地点を同定し、収集した事例について、どのような水辺であるかを(1)橋周辺または水路結節点、(2)料亭・茶屋等、タイプ毎に区分整理した。 そして、現代の水辺の設計の参考にすべく、水辺のタイプ毎にデザインとその特徴を、(1)立地デザイン、(2)骨格デザイン、(3)装置のデザイン、(4)植栽のデザイン、(5)道路との付け合いのデザイン、(6)視点のデザイン、の観点から整理した。次に、デザイン整理した各水辺が如何なる場所であるのか、水辺の立地とその特性を明らかにした。水辺のデザインと立地との関係は、場所性によって異なる親水水辺デザインを、大きく水辺タイプに共通するデザインと立地の特徴による差異の双方を明らかにし、水辺のデザインを規定する要因わ考察した。 分析の結果、当時の都市全体の水辺のデザインのあり方として、場所のコンテクストの踏まえ方、象徴性の付加法、応格の原則等、個々に見ていては気づかない大きなデザイン規範の存在を獲得した。計画的観点から整理した規範や原則は社会状況や利用状況が異なる現代の公共空間デザインにも応用が可能であると思われる。
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