青果物のエチレン生合成の内的調節機構を、数種果実を用いて未熟から完熟に至る過程と1-メチルシクロプロペンに対する反応を中心に分子生物学的に調べた。 1. トマト果実から9種のエチレン関連遺伝子のcDNAをクローニンし、それらの発現解析を行ったところ、システム2エチレンの生成にはLE-ACS2、LE-ACOlおよびNRが関与しており、しかも強い正のフィードバック制御を受けていた。システム1エチレンの生成には、LE-ACS6が大きく関与しており、その発現は負のフィードバック制御を受けていることが明らかとなった。 2. 同じウリ科に属しながら成熟型の異なるキュウリとメロンを分子生物学的に比較した。成熟エチレンを生成しないキュウリにも、メロンと90%以上の相同性を示すエチレン関連遺伝子が存在することが明らかとなった。しかし、キュウリのACC合成酵素遺伝子は傷害には応答したが、成熟果では発現しないことが両果実の成熟型の異なる原因であった。また、メロンにもキュウリに近い品種が存在することも明らかとなった。 3. バナナ果実から5種のエチレン関連遺伝子のcDNAをクローニングし、成熟初期にみられる鋭いエチレン生成のピークの原因解明を試みた。ACC酸化酵素活性が成熟初期に急激に低下することが明らかとなり、このことが原因と想定された。しかし、本酵素遺伝子は完熟まで一定して発現しており、酵素活性の低下を遺伝子発現から説明することはできなかった。そのため、本酵素の補助因子であるFeとアスコルビン酸含量をみたところ、成熟開始後はFe含量が急激に低下した。そこで、in vivoの酵素活性測定時にFeとアスコルビン酸を添加したところ、活性回復がみられたことより、エチレン生成の鋭いピークは、ACC酸化酵素の補助因子の欠乏に起因することが明らかとなった。
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