研究概要 |
本研究では高分解能多核NMRにより、果実の成熟過程における水分子の動態変化とその要因について解明した。水分子の動態を表すパラメータとして、各組織のT1,T2成分をスペクトル反転過程、スペクトル分割及びシグナル強度のセミログプロットにより解析した。その結果、イチジクやウメ果実は、成熟に伴い自由水の運動性が増大し、アポプラスト由来の結合水の減少を伴うことを明らかにした。液胞由来の自由水の増大期は細胞伸長期と一致し、これは「膨圧形成説」(Yamaki and Ino 1992)による果実の肥大機構を非破壊的に証明する結果となった。さらに^<13>C-NMR観測や組織化学的手法により、細胞壁の崩壊、デンプンや乳液などの低分子化、糖やペクチンの蓄積が水の運動性と関連することを明らかにした(現在Plant Scienceに投稿中、さらに2報を準備中、学会報告では、1997年春の日本植物生理学会で2題、秋の園芸学会で2題、植物学会で1題及び、夏の、合同植物生理学会(カナダ)で1題を発表)。 一方、^1H-NMRイメージング(MRI)及び高分解能多格NMRにより、環境(温度)変化による球根植物の休眠打破の指標を検討した。チューリップ球根の鱗葉では、低温曝露によりプロトンのシグナル密度が著しく高くなることやT2成分の割合が増えることを明らかにした。低温期間が長くなるにつれ含水量は鱗葉組織では増大し、花芽組織では減少し、MRIはその結果をよく反映した。低温処理による鱗葉組織の水の運動性が長期にわたって高く維持されることは、植え付け後の、鱗葉や花芽の澱粉分解に伴う呼吸活性の増大と関連し、チューリップ花茎の健全な生長に不可欠なものであることが示唆された(Okubo et al.1998 In press,Iwaya Inoue et al.1998 accepted、学会報告では低温生物工学会で1題を発表1997年)。
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