トビイロウンカの成虫には、長翅型と短翅型の二型があり、翅型の発現は幼虫時の密度によって主に決定されるとみなされてきた。しかし、当研究室では、翅型発現性に遺伝的変異があることを示し、広範囲の密度で特定の翅型および体色を圧倒的高率に発現する系統を作出し、それらを用いて翅型と体色の遺伝的制御機構を明らかにしてきた。本研究では、まず、特定の翅型を発現する系統を用い、いろいろな発育ステージの幼虫に幼若ホルモン、あるいは抗幼若ホルモンであるプレコセンを局所施用することにより、翅型、変態、および卵巣発育への作用を調べた。その結果、幼若ホルモンの施用は長翅型系統の短翅化および卵巣発育促進をもたらし、一方、プレコセンの施用は短翅化系統の長翅化および卵巣発育の遅延をもたらすとともに、両系統の早熟変態を誘起することが明らかになった。こうした化合物に対する反応性の比較から、長翅型系統では、終齢(5齢)幼虫期への脱皮の少し前にアラタ体からの幼若ホルモン分泌活性が低下するため長翅型が誘起されるのに対し、短翅型ではその時期活性が高いため短翅型になるものと推察された。 さらに、本研究では、4つの系統を用いて、幼虫期間および成虫寿命を比較し、両方の生活史特性は翅型と体色を支配する遺伝子が密接に関わっていること支持する結果を得た。すなわち、幼虫期間および成虫寿命は黒色短翅型系統で短く、黄褐色長翅型系統で長く、黒色長翅型系統と黄褐色短翅型系統は両者の中間の値を示すことが判明した。従来、長翅型は短翅型よりも幼虫期間と成虫寿命が長いと言われてきたのであるが、本研究の結果は、それらは遺伝的に制御されていることを示すとともに、さらに、それに関与する遺伝子は恐らくアラタ体の幼若ホルモンの分泌を制御するものであり、そのため、翅型、体色、卵巣発育、幼虫期間や成虫寿命に系統間での差異が生じることを支持するものである。
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