研究概要 |
トノサマバッタ成虫にバリドキシルアミンA(VAA,50mg/虫)を注射すると筋肉を含む体組織でのトレハロース代謝が阻害され,体液中トレハロース濃度が上昇する。ワモンゴキブリでは同様な処理により飛翔が抑制されるが,バッタの場合には影響を受けない。VAA注射後,体液中脂肪濃度の上昇し,これが飛翔エネルギーとして利用されるためと考えられる。これまで,バッタのトレハロースから脂肪への飛翔ヘネルギー転換は,飛翔初期のトレハロース消費による体液トレハロース濃度の低下が原因で起きるとされてきた。上の結果から,トレハロース濃度が高くても,その代謝が妨げられると脂肪濃度が高まり,飛翔筋での脂肪代謝が始動することが明らかになり,これまでの考え方を修正する必要が生じた。 一方,VAAの生殖に対する抑制作用はトノサマバッタ,ワモンゴキブリ両種で観察され,1回の投与によって影響が長期間持続した。ワモンゴキブリでは,VAA注射後1週間以内に産まれる卵鞘の着色,硬化が不完全になり,そこからはほとんど幼虫が孵化しない。その後は,卵巣の卵の発育が抑制され,卵鞘も産まれなくなる。この間,卵巣のトレハラーゼ活性は,筋肉等他の組織のものと同様に強く阻害されている。ゴキブリ類ではクロゴキブリ,チャバネゴキブリにおいても,VAAの生殖に及ぼす影響を調べた。両種とも,VAA投与により体液トレハロース濃度が顕著(数倍)に上昇し,各組織のトレハラーゼが阻害されることは明らかである。クロゴキブリでは,ワモンゴキブリと同様に卵鞘形成不全,卵発育抑制が観察されたが,チャバネゴキブリでは,影響がそれほど顕著ではなかった。
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