研究概要 |
本年はチャバネゴキブリ,クロゴキブリの卵発育に及ぼすバリドキシルアミンA(VAA)の影響を詳しく観察するとともに,ワモンゴキブリにおけるVAAの卵発育阻害がどのようにして起きたかを明らかにした。 チャバネゴキブリではVAA投与量に依存して死亡率の増加と卵鞘形成個体割合の低下が見られた。卵巣の卵発育も明らかに遅延した。クロゴキブリでは投与数日後に産下された卵鞘からは幼虫が孵化せず,その後は卵鞘が形成されず,15日後でも卵巣中には成熟卵がほとんど見られなかった。両種の卵巣,付属腺のトレハラーゼ活性は投与1日後から阻害され,6日後では無処理の活性の75-90%が阻害された。 ワモンゴキブリでは,卵鞘産下当日の雌に50ug/虫のVAAを注射し,体液中ビテロジェニン量と卵巣中ビテリン量をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動によって分析し,その変化を無処理虫と比較した。同時に,トレハロースを含む体液中の成分を^1H-NMRで分析し,卵巣,付属腺のトレハラーゼ活性も測定した。無処理では平均8.8日後に次の卵鞘を産んだが,処理虫では12日の観察期間には卵鞘の産下は見られず,卵発育遅延,卵の退化が認められた。処理虫では卵巣,付属腺のトレハラーゼが強く阻害され,体液中のトレハロース濃度が異常に上昇した。体液中の他の成分にも変化が見られた。無処理虫では,卵の発育と平行してビテリンの蓄積が進み,体液中のビテロジェニン濃度は卵への取り込みを反映して変動した。処理虫では,2日まではビテロジェニン合成が抑えられているが,その後は合成が続き,その卵への取り込みは抑制され,10日以後には体液中に蓄積した。 以上のように,VAAのトレハラーゼ阻害に起因する卵発育阻害は,発育初期のビテロジェニン合成の抑制とその後の卵へのビテロジェニン取り込みの減少によって起きると考えられる。
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