研究概要 |
昆虫の雄の付属腺には非常に高いトレハラーゼ活性が検出ざれることが多いが,ワモンゴキブリでも同様である。そこで,ワモンゴキブリ雄成虫にバリドキシルアミンAを投与して無処理雌とペアにして飼育し,その生殖に及ぼす影響を調べた。観察期間中の死亡率は高く,雌の卵発育は正常に行われているが産下される卵鞘の割合が低かった。この結果から雄付属腺のトレハラーゼは受精に関与していると想像される。 一方,トノサマバッタの雌の卵発育に対するバリドキシルアミンAの抑制作用は,ワモンゴキブリで明らかになったと同様な脂肪体による卵黄蛋白の合成抑制,卵でのその蛋白の取り込み低下に加えて,卵発育を促進するアラタ体ホルモンの合成阻害によって起きることが明らかになった。 糖代謝に関しては,試験管内での脂肪体のトレハロース合成能を13一Cラベルのフルクトースを前駆体にしてNMRによって容易に測定することが可能になった。この際,バリドキシルアミンAを培地に加えることにより,脂肪体そのものに存在するトレハラーゼの働きで起きる合成トレハロースの分解を抑えて,正確に測定することができた。 この研究の成果が,実際の害虫防除にどの程度利用できるかの検証として,アブラムシ類とコナガに対する殺虫活性を調べた。バリドキシルアミンAは水溶性で,昆虫の表皮,消化管から吸収されにくい物質であり,一般的にはこの化合物の殺虫剤としての利用は難しいと考えられるが,今回の結果から,植物の根から吸収された場合にアブラムシ類にかなりの殺虫効力が現れることが判明した。
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