核多角体病ウイルス(NPV)の宿主域決定機構を解析するために、4種類のNPVとそれぞれの宿主細胞系を用いて16種の感染実験を行い、細胞病変効果、ウイルスDNAの蓄積、出芽ウイルス産生、ウイルス構造タンパク質の蓄積、ポリヘドリンの蓄積、および多角体の形成について調査した。 Ac(Autographa californica)NPVはSF21、SpIm、Se301細胞においては増殖して多角体を形成したが、BmN-4細胞では増殖するものの多角体は形成しなかった。Bm(Bombyx mori)NPVはBmN-4細胞においてのみ明らに増殖し、SpIm細胞ではごく一部の細胞で増殖した。SF21細胞ならびにSe301細胞では、ウイルスの増殖を示すいずれの事象も認められなかった。Hc(Hyphantria cunea)NPVは、SpIm細胞およびSe301細胞において増殖して多角体を形成した。SF21細胞では、はっきりとした増殖は認められなかったが、ウイルスDNAは多量に蓄積していた。BmN-4細胞においては増殖しないものの、ウイルスDNAは蓄積しており、細胞は良好な状態にはなかった。Se(Spodoptera exigua)NPVは、Se301細胞においてのみ明らかに増殖した。SpIm細胞では多角体形成はほとんどみられなかったが、アポトーシス様形態の細胞が多数観察された。 以上のように、それぞれのNPVは宿主培養細胞種の違いに応じて、様々な感染増殖様相を呈すること、ならびにそれぞれの培養細胞は異なったNPVに対して様々に応答することが明らかになった。本実験系を活用することにより、NPVにおける宿主域決定要因が効率よく解析できるものと考えられる。
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