研究概要 |
本年度の研究により、わが国の主要土壌である沖積水田土壌および黒ボク畑土壌における下層土の作物生産における役割として、溶脱養分の吸収の場として重要であり、さらに、下層土の作物生産力に対する寄与は土壌のコロイド組成によって大きく影響されることが明らかになった。 1.沖積水田土壌のアンモニウムイオンの保持量と水稲生産性 水田土壌におけるアンモニウムイオンの保持量は下層土への窒素溶脱に強く関わる要因である.それは一定負荷電量にほぼ決定され,主要粘土が2:1〜2:1:1型中間種鉱物である土壌より,膨張性2:1型鉱物である土壌で大きな値を示し,施肥窒素の利用率や水稲の収量は後者で高いことが明らかになった.一定負荷電量の少ない砂質もしくは中間種鉱物を主体とする水田土壌では,水稲生育は下層土の養分供給能により強く依存すると考えられた. 2.コロイド組成の異なる黒ボク畑土壌における作物生育と下層土の役割遮根シートで下層土への根伸長を制限した作土区(厚さ15cm)と作土+下層土(厚さ60cm)におけるオオムギの生育・収量および窒素呼吸量を比較した。作土区に対して、下層土区の子実収量および窒素呼吸量は非アロフェン質黒ボク土1.3倍および1.7倍であり、アロフェン質黒ボク土では1.8〜2.4倍および2.8〜2.9倍であった。全窒素呼吸量における下層土での呼吸割合および施肥窒素呼吸量における下層土での呼吸割合は、非アロフェン質黒ボク土では42%および22%であり、アロフェン質黒ボク土では64〜65%および57〜60%であった。このことから,下層土は作土から溶脱した施肥および土壌窒素の吸収の場として重要な役割を果たしており,その寄与率には下層土のコロイド組成が強く影響することが明らかとなった.下層土への根張りが制限される場合の省力的対策として,肥効調節型肥料(例えば、ポリオレフィン被覆尿素)を全量基肥施用することが効果的であり,慣行施肥(硫安の追肥体系)に比べて1.4〜1.5倍の子実収量が得られることが明らかとなった.
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