本研究の目的は窒素安定同位体比法を用いて多摩川の窒素汚染源を明らかにし、その自然的、人為的浄化過程の意義を明確にして、多摩川の窒素汚染除去対策の確立に資するところにある.多摩川の支流及び多摩川流域の湧水についてその流域における人間活動も含めて調査し、窒素特に硝酸態窒素(NO_3-N)の濃度とδ^<15>N値を求め、窒素汚染源及び河川流下にともなう窒素浄化の程度を推定しようとした. (1) 平井川は下記に示す秋留台地の影響を受けてNO_3-N濃度及びδ^<15>N値は高くなっている.特に南小宮橋での採水はすぐ上流部に草花公園からの排水が流入していることからNO^3-N濃度10.3mgL^<-1>、δ^<15>N値+10.7‰と著しく高くなっている.秋川源流部のNO_3-N濃度は0.61mgL^<-1>δ^<15>N値は-0.20‰であり、雨水と同程度であるが、下流部ではNO_3-N濃度は1.38mgL^<-1>、δ^<15>N値+5.44‰に達していた.これは下流の流域に存在している畑地からの化学肥料由来のNO_3-Nの影響が反映しているのではないかと推定される.秋留台地の崖下に湧出する湧水は台地上の農業、特に畜産業の影響を強く受け、そのNO_3-N濃度は8.98〜9.28mgL^<-1>と極めて高く、δ^<15>N値も+7.95〜+8.75‰と高い値を示している. (2) 北浅川源流部のNO_3-N濃度は1.16〜1.52mgL^<-1>であるが、大学移転やニュータウン開発が進んだ南浅川が合流すると浅川のNO_3-N濃度は4.42mgL^<-1>に上昇し、NH_4-NやNO_2-Nが検出された. (3) 野川の主要な水源であるである国分寺崖線の湧水のNO^3-N濃度は4.50〜6.48mgL^<-1>、δ^<15>N値は+4.67〜+5.34‰の範囲にあった.野川は流下するに従い、次第に河川自体の浄化作用や脱窒作用によりNO_3-N濃度を減少、δ^<15>N値を増大させ、仙川合流直前でそれぞれ4.03mgL^<-1>、+8.16‰を示した.仙川は三鷹市の下水処理水が流入している下流ではNH_4-N濃度5.18mgL^<-1>、NO_3-N濃度10.6mgL^<-1>でδ^<15>N値は+9.55‰であり、仙川合流後の野川はNO_3-N濃度6.40mgL^<-1>及びδ^<15>N値+11.7‰に増大している. (4) 多摩川上流右岸の湧水のNO_3-N濃度は0.48〜14.1mgL^<-1>、δ^<15>N値は+0.53〜+6.84‰で+0.53‰のものは天然由来であり、6‰前後のものは土壌有機物の分解によるものと推定された.中流右岸の湧水のNO_<3->N濃度は0.12〜9.62mgL^<-1>、δ^<15>N値は+5.64〜+8.21‰で高濃度のNO_3-Nは生活雑排水等の人為的影響によるものと推定された.中流左岸に位置する都立農業高校農場内の湧水のNO_3-N濃度は2.45〜9.69mgL^<-1>で芦田下を除く3地点は9mgL^<-1>程度、δ^<15>N値は+6.90〜+7.82‰であったが、芦田下ではそれぞれ2.45mgL^<-1>、+13.2‰であることから芦田による窒素除去能力が示唆された.
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