セリンプロテアーゼであるアクアライシンIは、カルシウム存在下での活性の最適温度は80℃(好熱性)であり、80℃で3時間おいても活性は殆ど変化しない(耐熱性)。活性の最適pHは約10(好アルカリ性)であり、4℃ではpH12以上でも長時間安定である(耐アルカリ性)。アクアライシンIのもつこれら特性が、酵素の構造上いかなる機構によるものか、どのアミノ酸残基の寄与によるものかを明らかにすることを目的としている。本年度の研究により、以下のことが明らかになった。 1.ランタンは、アクアライシンIの熱安定性に対して、Ca^<2+>と同等以上の効果をもつことが明らかになった。NMRによる^<139>Laシグナルの測定の結果、La^<3+>のアクアライシンIとの結合定数は、Ca^<2+>に比べて約10倍大きかった。 2.PCRを用いるランダム変異法により、アクアライシンI遺伝子の中のプロテアーゼ領域をコードするDNA部分にのみ変異を導入し、その部分を持つ大腸菌発現プラスミドを構築し、大腸菌を形質転換した。低温活性型酵素と低pH活性型酵素を生産する組換え大腸菌クローンの分離を行ったところ、共に約1000分の1(以下)の頻度で目的とするクローンが得られた。現在、取得したクローンについて、大腸菌発現系を用いて酵素を生産し、精製酵素のレベルで低温活性型酵素、あるいは低pH活性型酵素であるか否かを確認している。 3.部位特異的変異法によりアクアライシンIのAsn-219をセリンに置換した変異型酵素N219Sでは、酵素活性の至適温度は80℃と変わらなかったが、10℃〜90℃の範囲にわたって活性は野生型酵素の2倍以上に上昇し、本研究の目的の一つである低温活性型酵素の取得に成功した。
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