アクアライシンIは、カルシウム存在下での活性の最適温度は80℃(好熱性)であり、80℃で3時間置いても活性は殆ど変化しない(耐熱性)。活性の最適pHは約10(好アルカリ性)であり、4℃ではpH12以上でも長時間安定である(耐アルカリ性)。本酵素のこれら特性が、構造上いかなる性質によるものかを明らかにすることを目的としている。本研究により、以下のことが明らかになった。 1.アクアライシンIの耐熱性に対する希土類金属の効果を調べた結果、金属の電荷(2価と3価)にかかわらず、金属元素のイオン半径(0.93〜1.06Å)に依存して、カルシウム(イオン半径O.98Å)と同様、本酵素を安定化した。ランタンはCa^<2+>と同等以上の効果を示した。NMRによる測定の結果、La^<3+>のアクアライシンIとの結合定数は、Ca^<2+>に比べて約10倍大きかったことから、この結合の安定性が耐熱性に大きく寄与していることが分かった。 2.PCRを用いるランダム変異法により、アクアライシンIのプロテアーゼ領域をコードするDNA部分に変異を導入し、大腸菌発現系を構築した。低温活性型酵素と低pH活性型酵素を生産する組換え大腸菌クローンの分離を行ったところ、共に約1000分の1(以下)の頻度で目的とするクローンがプレート上では得られた。しかし、これら変異型と推定されるクローンからの精製酵素は、いずれも低温活性型、あるいは低pH活性型の性質を示さなかった。 3.アクアライシンIのAsn219をセリンに置換した変異型酵素N219Sでは、酵素活性の至適温度は80℃と変わらなかったが、10℃〜90℃の範囲にわたって活性は野生型酵素の2倍以上に上昇し、本研究の目的の一つである低温活性型酵素の取得に成功した。Asn219は、触媒残基の一つであるSer222の近傍に位置することから、その側鎖が触媒活性に影響を与えることが分かった。
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