本研究では、細菌のD-アミノ酸代謝関連酵素の特異的阻害剤を設計する基礎として、これら酵素の構造と機能の関係について研究した。そのためまず好熱性枯草菌由来のD-アミノ酸トランスアミナーゼ(D-AAT)の活性中心Arg98の役割について明らかにした。X線結晶解析の結果では、ホモダイマー構造をとるD-AATにおいて、補酵素ピリドキサルリン酸(PLP)のsi面側の水酸基近傍に、別のサブユニットのArg98が存在する。このArg98の部位特異的変異により、Arg98が基質結合部位であるとともに、D-AAT反応における基質a-ケト酸の阻害効果に関与することを明らかにした。さらに、D-AATのArg98をMet、Tyr88をArgに置換した二重変異型酵素Y88R/R98MのArg88が、基質結合において野生型酵素のArg98と同様な役割を果たすことを見い出した。また本研究では、細菌のD-アラニン代謝に関与するアラニンラセマーゼの反応において、基質a-水素の引き抜きが単塩基機構で行われるのか、複塩基機構で行われるのかについての知見を得るため、好熱性枯草菌由来の同酵素において、水素引き抜きの触媒基である可能性が高いPLP結合リジン残基をアラニンに変換した変異酵素、K39Aを構築し、その性質について検討した。K39Aの触媒するラセミ化反応は一級アミンにより活性化されたが、二級アミンは効果がなかった。一方、両アミンともK39Aが触媒するピリドキサミンリン酸とピルビル酸の間のアミノ基転位反応を活性化した。このような一級アミンと二級アミンの相違はアラニンラセマーゼ反応の律速段階がアルジミン転移反応であり、一級アミンがこの反応を活性化するのに対し、二級アミンは基質a-水素の引き抜きは活性化するものの、アルジミ
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