研究概要 |
近年の研究により,クロマチン構造が転写,複製など様々な生命現象に深く関わっていることが明らかになってきた。しかし、ヒストン蛋白を別にすれば、クロマチン構成因子やその制御因子、あるいは足場となるDNA配列などの知見は極めて少ない。本研究では、まずそうした因子の代表的なものである出芽酵のSin4に焦点をあて、sin4変異株では、コアプロモータに依存的な基礎転写が活性化されること、sin4変異株においても転写が活性化されない遺伝子の上流には,基礎転写を抑制する配列があることを明らかにした。次に、減数分裂の誘導に必須であるIME1遺伝子の転写が、Tup1/Ssn6抑制を受けていることを明らかにした。Tup1/Ssn6抑制と、今までに知られていたRme1抑制、Sin4/Rgr1抑制との遺伝的相互作用の解析、及びヌクレオソーム構造、環状プラスミドの超らせん密度の解析から、Sin4タンパクはヌクレオソーム構造ではなく、より高次のクロマチン構造に関与して、基礎転写の抑制に作用する因子であることを示唆する結果を得た。次に、Sin4変異による基礎転写の活性化を抑圧するABE1-1優性変異を分離した.ABE1-1変異は、転写活性化因子Pho4による転写の活性化には影響を与えなかった。さらに、ABE1タンパクはSIN4野生型株においても、基礎転写の活性化に機能していることを示した。最後に、ヌクレオソームや高次クロマチンに影響を与えるであろうと予想されるsin4、hho1、sir3、sir4、tup1変異株において、どの程度広範囲の遺伝子の転写が影響を受けるかについて、第VI番染色体上の全遺伝子127個を対象にその転写を解析した。その結果、sir3,tup1変異株でHSP12,HXK1などいくつかの遺伝子の転写上昇が認められた.しかし、転写上昇が認められた遺伝子の近傍の遺伝子の転写には影響が見られず、sir3,tup1変異は、少なくとも転写に関して広範な染色体領域に影響を与えるわけではないことがわかった。Sir3タンパクはヘテロクロマチンの構成因子と考えられていることから、HSP12、HXK1遺伝子のある第VI番染色体領域にもヘテロクロマチン様構造が存在する可能性が示唆された。最近、sin4変異によって転写上昇が見られないコアプロモータから転写上昇を示す新しいタイプの変異株を分離した。sin4変に加え、これらの新しい変異株は、知見の乏しい真核生物における基礎転写の制御と高次のクロマチン構造との関わりを理解する上で、有用な知見を与える研究材料になるものと考えている。
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