研究概要 |
本研究は、チオストレプトン生産性Streptomyces属放線菌におけるプラスミドと宿主細胞染色体の膜貫通を介したDNA転移に関わる拮抗現象及び転移機構の究明を目的とし、下記の成果が得られた。 まず、プラスミドDNA転移および放線菌染色体DNAの分布に機能すると考えられる遺伝子(プラスミドのtra遺伝子,放線菌のspo III E様遺伝子,複製開始蛋白の遺伝子rep,複製開始点ori,放線菌の一本鎖DNA結合性のヒストン様蛋白HSIの遺伝子hup等)とそれらの産物を明らかにした。 次いで、これらの遺伝子と産物の性状や機能の究明によって、以下のことを導き出した。(1)DNA転移は、一本鎖DNA(ss DNA)の形成にはじまり、膜貫通性蛋白TraやSpo III E様蛋白上で起こるATP分解に伴い生じるエネルギーによって駆動する。(2)hup遺伝子産物HSIは受容細胞内と同様に転移の間もss DNAに結合すると推測される。(3)spo III E様蛋白は放線菌の胞子形成のための染色体分配に機能するが、類似の構造と機能を持ち、多量存在するプラスミドのTra蛋白によって拮抗され、胞子形成の進行が阻害される。(4)プラスミド転移に伴う胞子形成阻害現象(ポック形成現象)は抗生物質バシトラシンによって抑制されるが、逆に胞子形成は顕著に促進された。(5)バシトラシンによって誘導される2種の膜蛋白(32、38 kDa)を分離した。32 kDa蛋白は未知であるが、38 kDA蛋白はABC-transporter蛋白であった。これらの2種の蛋白は放線菌の染色体DNAの分配には促進的に、プラスミドDNAの転移・伝播には抑制的に作用すると推測した。(6)さらに、環状・接合性プラスミドの胞子形成阻害作用(kill作用)を抑制する機能(kill override)を有する線状・接合性プラスミドの性状を明らかにした。
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