諸種の生理的条件におけるインスリン様成長因子結合タンパク質-1(IGFBP-1)の血中濃度の変化:無タンパク質食給与、グルココルチコイド投与、ストレプトゾトシン糖尿病、の条件下において、血中のIGFBP-1濃度と骨格筋のRNA/タンパク質比の相関を調べたところ、いずれの条件下においても、この二つのタンパク質代謝の指標が、高い負の相関を示すことが明らかになった。一方、血中のIGF-Iの濃度と骨格筋のRNA/タンパク質比も高い相関を示したが、グルココルチコイド投与の場合の相関係数は低かった。上記の3種類の生理的条件は、骨格筋のタンパク質代謝に、それぞれ特徴ある影響を与えることが知られている条件であり、またRNA/タンパク質比は、組織のタンパク質合成活性をよく反映する指標であるとされている。血中のIGF-I濃度が常に骨格筋のRNA/タンパク質比と相関しなかったこと、またIGFBP-1濃度は常に相関したことは、IGF-Iのタンパク質合成促進活性が、IGFBP-1によって、制御されていることを強く示唆している。 骨格筋における翻訳開始因子-4E(eIF-4E)とその活性を抑制するPHAS-Iの結合状態の解析:mRNAの翻訳は翻訳開始因子との会合に始まる。eIF-4Eはキャップ構造を認識する因子であり、この因子の活性は、PHAS-Iという別のタンパク質と結合すると抑制されていることが知られている。上記の3種類の生理的条件下でeIF-4EとPHAS-Iの結合状態を調べたところ、タンパク質合成活性が抑制されている条件下では、いずれの状態でも、eIF-4Eと結合したPHAS-Iの量が著しく増加していることが明らかになった。以上、今年度の研究によって、血中のIGF-I濃度、IGFBP-1濃度と骨格筋のタンパク質合成活性との関係を、明確に証明することに成功した。
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