研究概要 |
われわれは、代表的消炎プロテアーゼとして臨床的に用いられているセラチア・プロテアーゼ(Serratia protease,SP,分子量5万)を熱傷受傷ラットに経口投与すると、その一部が活性を保持したまま消化管から吸収されて血中へ移行し、劇的な消炎効果を発揮することを見いだして、タンパク質が消化管から吸収されることを世界的に先駆けて証明した。そして、食事内容の改変や薬物の使用によりタンパク質の吸収を調節することができれば、食品アレルギーからの回避や経口高分子医薬の開発などに道を拓くことができるとの考えのもとに、タンパク質の吸収量を変動させうる要因について研究を行ってきた。 すでに前年までに、成熟ラット(10週齢前後)に比べ離乳前ラット(3週齢)と老化ラット(75週齢)で吸収が大幅に(10〜100倍)亢進することを見いだして、この吸収の亢進が老化の指標の1つとなりうることを指摘するとともに、摂食が吸収量を増大することをも見いだして、検討を続けている。 今回の研究で得られた特記すべき成果を記し、考察を加える。 1.消化管からの吸収経路 尾静脈血、門脈血および腸管リンパ液中のSP濃度を経時的に追跡した結果から、SPはまずリンパ管経由で吸収され、その後血中へ移行することが分かった。 2.共存物質の影響 (1)10倍量のカゼイン存在下では胃酸による変性とプロテアーゼによる分解が抑制される結果、吸収量が約3倍に増加した。(2)60%(v/v) corn oilの共存下では、SPが油と水とから成るエマルションにとり込まれ、失活・分解を免れる結果、吸収量が大幅に(10倍以上に)増加した。このことは、タンパク質の吸収量の変動に脂質の共存が大きく影響することを示している。(3)サーファクチン(B.subtilisの生産する陰イオン性ペプチドリピド界面活性物質)存在下では、胃中のSPがほぼ完全に失活しているにもかかわらず、最高血中濃度に到達する時期が早まり、吸収量も増大した。このことは界面活性物質がタンパク質の消化管吸収の分子機構そのものに影響している可能性を示唆している。 本年度は(2)と(3)の問題に焦点を当てて研究を展開したい。
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