研究概要 |
農山村に人が定住し農林業に従事できる社会的・経済的条件を用意することは,農林業生産面での利点だけでなく,環境保全面での利点も発生するであろうことは,周知の通りである.また活力ある集落(いわゆる「元気ムラ」)への誘導も,その前提として,支援によってそうなる集落とならない集落を峻別する必要がある.さらに「元気ムラ」自体も世代間の価値観の変化と経済効率主義の浸透により,継続的に維持されるかどうかの問題も抱えている.他方「デカップリング政策」は最も特徴的な直接的所得補償に矮小化して理解されているきらいがあるが,本来,EUと我国の条件の差を十分に認識しなければならない.その際に,集落を基本単位として,地域資源利・活用の程度,同居家族の世代数,就業構造・所得構成の複合性,集会活動・伝統芸能等の有無,リーダー層の存在の有無等が,この政策を導入する際のポイントとなる. そこで,山村集落を維持するための直接的所得補償を,現地調査(東北・中国・四国・九州の山村の22集落)および当該集落住民に対するアンケート調査から,我国の条件に即して考えると,その論拠となる視点は次の4点であろう.(1)産業政策として…農林産物の両方があるが,とくに農産物生産に関して,食料安保と農地を生産的に利用管理する点から,平場農村に対するコスト差を補填する必要がある.(2)国土政策として…これは国土保全政策(環境政策)と過疎・過密の解消を目標とする分散政策((4)と関連)がある.国土保全政策は,環境保全サービスの供給に対する受益者の負担としての生産的管理コストの補填が考えられる.(3)福祉政策として…定住権ないし居住権という概念を導入すると,生活基盤整備とも関連しながら,住みやすく住み続けるために,平場農村や都市と比較して生活における追加的コストの補填が必要である.(4)財政政策として…国土分散政策と関連するが,都市の過密と山村の過疎の財政支出額総計は,人口移動をある程度抑制する政策(山村での定住を促進する政策)を採用することで現状のそれよりも節約されると考えられる.
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