研究概要 |
筆者は,森林地の蒸発散量分布を推定するため,放射温度計によって計測された森林の表面温度画像と熱収支データを用いて蒸発散量を推定する方法を提案している.しかし,地上から森林の樹冠を観測するには,森林を横から観測する場合が多く,そのため樹形と葉による陰の影響で,表面温度を正確に測定するには問題があった.また,樹高の高い森林地を広範囲に観測するには,地上からの観測では限界がある.そこで,気球に放射温度計を搭載し,真上から解析対象の森林の表面温度観測を行い蒸発散量分布の推定を試みた.実験観測は,愛媛大学附属演習林のヒノキ林(樹高約10m)で行なわれた.直径3.5mの球形の気球(約24m^3)に放射温度計,コントローラー,バッテリ-,超小型無線ビデオカメラを取り付け,林道から地上最大約190mの上空よりヒノキ林を観測した.観測した日は10月15日から17日であるが,比較的気球の動きが小さかった10月17日について解析を行った.観測時間は8:30から17:00で,その間表面温度を15秒毎に計測した.また,放射温度計の観測方向を無線によってコントロールできるようにし,観測場所は地上でモニターして,気球の位置,放射温度計の観測方向を地上で制御した.解析は,データのうち約10分間隔の画像を選定して画像処理を行い,その表面温度画像と地上の熱収支観測を組み合わせて蒸発散量の推定を行った.さらに地上からの表面温度観測も同時に行い,推定される蒸発散量の違いを検討した.その結果,気球から計測した表面温度は,地上から計測した表面温度より高く,そのため気球から計測された蒸発散量は,地上観測から推定した結果より低くなった.その違いは表面温度の計測の精度によるもので,気球観測の方が精度の高い蒸発散量分布の推定精度が得られることが明らかになった.
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