本研究の目的は、走査型放射温度計の表面温度画像と熱収支観測を組み合わせて蒸発散量を推定する方法(表面温度法)を用いて、この放射温度計を小型気球に取り付け数百mの上空にあげ、鉛直下方向を観測し、従来地上観測でできなかった広範囲の森林地の蒸発散量分布を明らかにすることである。本年度の研究実績は以下のようであった。 1.実験観測は、平成8年度と同様の愛媛大学農学部附属演習林のヒノキ林で数日間行った。平成9年度は気球の観測高度を最大約250mで平成8年度より広い範囲を観測できるようにして、谷を挟んだ2つの森林斜面を観測した。これらヒノキ林において熱収支観測用のポールに、通風型乾湿計、放射収支計、3杯型微風速計を設置し、3高度の気温、湿度、風速と純放射量などを1秒ごとに計測して、ボ-エン比法でも蒸発散量が推定できるよう観測を行った。また各斜面において、樹冠上に対空標識を設置しそれに温度計を取り付け、斜面における平面的な気温分布の計測も実施した。 2.観測の結果は、斜面の向きの違いで表面温度は平均1.8℃の違いが見られ明らかに異なっている。この時の蒸発散量は、表面温度の低い斜面の方が、約0.28mm/4hrほど大きく推定され、ボ-エン比法で推定された蒸発散量も大きくほぼ同じ値を示し、気球を用いた表面温度法は向きの異なる斜面の蒸発散量分布を推定する上で有効であることがわかった。また斜面の向きが異なると気温、風速など気象条件が異なるため、表面温度法で斜面の向きが異なる広範囲な場所に適用するには、気温、風速、純放射量の観測は必ず必要であることがわかった。また、気球を用いた観測システムは、現在の走査型放射温度計では1時間半毎のバッテリ-交換が必要となり、長時間の観測ができないが、省電力型の放射温度計が開発できれば操作も簡便であり非常に有効な方法であることがわかった。
|