研究概要 |
本研究では北太平洋亜寒帯循環及び沿海と移行領域を対象海域として、中長期気候変動と海洋の応答を調べ、生態系鍵種に与える影響を検出する事を目的としている。平成10年度はこれまで練習船おしよる丸と北星丸によって継続してきたモニタリングラインの海洋観測と生物資料採集を実施し、本研究の継続データベースに追加し解析を進めた。またアラスカンストリーム流路内に設置してあった係留系を回収し、深層の流れについて解析を加えた。大気変動を可視化して示し、スケトウダラ加入量に大きな影響を与える海氷滞在指数の経年変動をオホーツク海とベーリング海について取り纏めた。資源量解析の基本となる体長組成データの代わりに簡便な体重組成資料を用いた体重組成コホートによる資源解析法を提出した。今年度新たに得られた成果は次の通りである。 この海域はアリューシャン低気圧システムに最も影響を受け、1977、1989年に大気システムにレジームシフトがある。これを境として海氷滞在指数の極大と極小が生じ、フェーズの逆転が生じている。2)1998年のアラスカンストリームの西向ぎ傾圧流量は14svと1990年以来最も少ない値であり、大きな経年変化を示した。3)中部北太平洋におけるシロサケの分布・豊度・年齢組成・サイズの過去20間の推移を,海洋環境との関連で調べた。その結果,シロサケの体長と年成長率に経年的低下が認められた。また,分布域を緯度別に区分して比較したところ,亜寒帯移行領域では,シロサケ自身の密度効果が体サイズの小型化と高成熟年齢に影響することが明らかとなった。4)同様に,アカイカについて,その豊度とサイズの経年的変化を調べた。その結果,92年までのアカイカ流網漁業が盛んであった時期に比べて,94年以降その豊度が増加していた。また,97年には豊度が低く,アカイカサイズが大型であったが,これはエル・ニーニョによる再生産率の低下と,その後の密度低下に伴う餌環境の好転が推定された。5)サンマの生活史解明において,その寿命がいまだ特定されていない。そこで,寿命を1.5年と2年と設定して親子モデルを作成し,どちらが過去の漁獲量とサイズ組成変化に適合するかを調べた。その結果,寿命2年で1.5歳と2歳の段階で産卵する親子モデルが最も適合することが明らかにできた。5)体重組成に基づくコホート解析法(VVPA)による資源量推定について,亜寒帯性種のタラ類に適合させて検討した。その結果,WPA法は,タラ類資源の変動と適性漁獲のサイズ・時期などを求める上で有効であることを始めて明らかにした。
|