イトゴカイはヘドロ化したに底質生息する数少ない多毛類で、有機物分解を促進し、硫化物の蓄積を阻んで環境悪化を抑制することが知られている。本研究はこの具体的なメカニズムを明らかにする目的で、主に以下の三点の研究を行った。 1. イトゴカイを実験室で飼育し、好気性細菌、嫌気性細菌および硫酸還元菌の変動を調べた。いずれの菌群も常に検出されたが、イトゴカイの有無による明瞭な差は得られなかった。イトゴカイの飼育系に添加する有機物がそれぞれの菌群の増殖を直接間接に支えるためと結論づけられた。 2. イオウ細菌を培養法および分子生物学的方法で検出することを試みた。イオウ細菌は一般に培養困難で、種々の培地を検討した結果、pH7で培養可能な菌が分離された。現在、その16S rRNA塩基配列を検討中で、その結果に応じて特異的なプローブを設計する予定である。 3. イトゴカイが作る巣穴は周囲の環境に様々な影響を及ぼす。好気的プロセスの促進の大きさを定量化するため、テトラゾリウム化合物を用いて現場の微少生物群の呼吸活性を定量化する方法を開発した。この方法の適用によってイトゴカイの環境浄化に果たす役割をより客観的に評価することが可能になった。
|