研究概要 |
黒潮流域の産卵場から本州中部沿岸海域へ運ばれてシラスとして漁獲されるマイワシ仔魚の成長履歴を解析した結果,沿岸域に到達して以降成長が停滞傾向にあることが分かった。一方,黒潮域にとどまって稚魚にまで成長した個体ではこのような成長停滞の傾向がなかったことから,仔魚期後半(体長20mm)から稚魚(50mm)までの成長に要する時間は沿岸域が長く,したがってこの間の減耗も沿岸域で大きいと考えられた。 黒潮によって北東方へ運ばれる個体は,初夏に黒潮続流に達した後に北上し,秋から冬にかけて東北沿岸に来遊する。一方,沿岸域へ運ばれた個体は初夏に伊勢湾などの内湾へ来遊する。東北沿岸と伊勢湾で,体長100mm前後に成長したマイワシ稚魚を採集して成長履歴を解析した結果,東北海域へと回遊した個体群では伊勢湾の群より成長が速いこと,ふ化時期による成長履歴の差がより小さく,同じ時期にふ化した群内の個体差も小さいことが分かった。成長の変異が小さいということは,北上回遊群が移行域の複雑な海洋環境の中から成長に適した環境を選択して回遊した結果と思われた。北上回遊群の変動が著しく大きいというマイワシ資源量変動の特徴は,群間,群内の成長変異が小さいことにあらわれているように,北上群全個体が環境変動の影響を同じように被る結果かもしれない。これに対して,閉鎖的な伊勢湾の個体群では,湾内の環境が季節的に大きく変動することと対応して,ふ化時期による成長過程の差が大きく,湾内の地理的構造による多様な環境の存在に対応して,同じふ化群内の個体差が大きいと考えられた。このことは,湾全体にある環境変動が起こった場合でも,個体群全体のある部分は大きな影響を受けずに生残することで,資源変動の幅を相対的に小さくしている可能性があることを示唆している。
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