研究概要 |
熱帯・亜熱帯の島嶼環境下における魚類の通し回遊現象を明らかにする目的で、選定したモデル魚類を通して、生理・生態の両側面からこれらの魚類の生活史の成り立ちを探ろうとした。 1.リュウキュウアユ (1)本亜種の配偶子のうち特に精子では、微細構造的にその頭部の核が相称、中心子の配置が非相称であるなど、本州アユとは異なる特徴が見られた。卵径は約1.06mm、孵化仔魚は約5.8mmであった。 (2)鱗、櫛状歯、消化管長、骨格系の発達は、いずれも本州アユより早かった。 (3)河川(源河川)における産卵期は12月上旬から1月下旬で、流下仔魚は内海域で分散、成育し、遡上時の体長は32.3mm、体長35mmで藻類食に移行した。 2.ユゴイ (1)生殖腺体指数及び組織学的観察から、沖縄本島における本種の産卵期は4-9月で、この間に複数回産卵する多年産卵型で、その産卵数は体長と共に増大し、70,000〜360,000粒と推定された。 (2)本種は3-7月に体長約20mmで、海から河川に遡上した。年令査定の結果、雌は雄より成長が早く、寿命も雌6歳、雄2歳で、これを反映して河川での雌雄比は3:1と、雌に偏った。 (3)海水適応実験より、血中Na及びClイオンの変化から、本種成魚が海水に強い耐性を持つことが示された。 3.テラピア (1)沖縄本島の億首川に野生化したOreochromis mossambicusの産卵期は5-9月で、この間に複数回産卵することが示された。 (2)淡水、海水(35%_0)、濃縮海水(55%_0)でテラピアを1ヶ月順化させ、酸素消費率を始め様々なパラメータについて検討した結果、生理的には海水に対する適応性が極めて高いことが示された。 以上の結果から、島嶼河川の厳しい生息環境下で、回遊性魚類が巧みに生活史を成り立たせ、また一方で移入種が河川を優占し得る生理・生態的要件の一端が解明された。
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