昨年度、マルソウダ加工処理残滓自己消化エキスの調整条件を検討した際、消化エキス中に苦味・渋味などの不快味が生じることが明らかになった。そこで本研究は、その不快味の由来の解明と、このエキスの食品への利用の可能性を探ることを目的とし、(1)残滓中に多量に含まれる脂質のエキスの不快味への関与、及び(2)自己消化エキスの水産練り製品への調味料としての利用可能性を検討した。 (1)脂質のエキスの不快味への関与:攪拌調整エキスは、静置調整エキスに比べて有意に苦味と褐色度が増すが、これらの差異は、窒素封入によって消失した。また、攪拌調整エキスでは自己消化中にTBA値が増加し、逆に遊離アミノ酸量並びに消化残査中の高度不飽和脂肪酸含量が減少した。さらに頭部(脂質9%)に替えて普通肉(同1%以下)を用い、自己消化エキスを調製したところ、攪拌・静置ともに苦味が生じなかった。しかし、この普通肉に頭部から抽出した脂質を添加して調製したところ、エキスの苦味は、脂質無添加並びに脂質添加・窒素封入調整エキスに比べて有意に強くなった。以上の結果から、攪拌調製時に生じたエキスの苦味は、主に頭部に含まれる脂質の酸化に起因すると推察した。マルソウダ残滓中には、高度不飽和脂肪酸を多量に含む脂質の含量が高いことから、脂質の酸化を避けるよう、その取り扱いには十分に注意する必要があることが示唆された。 (2)自己消化エキスの食品への利用可能性の検討:0.5%化学調味料(95.5%グルタミン酸ナトリウムを含む)を添加したフィシュボールと比較して自己消化エキス(0.5%化学調味料添加と窒素量換算で等量添加)を添加したものは、色がやや濃くなり、匂いも若干強いものの、旨味が強く、全体的には好まれる傾向にあった。また、このエキスの添加は、カマボコの物性には何ら影響は及ぼさなかった。以上の結果から、自己消化エキスは、調味料として十分利用可能であると判断した。
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