高圧バルブをリンクモーション機構で固定し、除圧時間が0.0013〜0.001650s(500〜100MPa)で作動する「瞬間除圧式殺菌装置」を開発し、耐熱性胞子Bacillus stearothermophilus IFO 12550を指標菌に用い、装置特性を検討した結果、当該胞子は100〜200MPaでも殺菌され、その機構は胞子外套の物理的破壊に起因することを実証した。 走査型電子顕微鏡の入手が叶えられた結果、高圧処理後の菌体破壊状況を詳細に観察することが可能になり、高圧殺菌機構の解明に成功した。特に、耐熱性胞子の高圧殺菌は胞子外套を透過する水の浸透性(透過性)で律速された。水の浸透性は温度の影響を受け、75℃以上で促進され、殺菌効果の向上につながった。更に、B.stearothermophilus IFO 12550胞子は100MPaでもかなり破壊殺菌され、200MPaでは殆どが殺菌され、200MPa、20分処理におけるD値は75℃で17分、85℃で11分、95゚Cで6分である。 その殺菌原理に基づいた高圧殺菌装置を試作し、高圧殺菌に必要な圧力を既存の高圧殺菌圧力よりも1/3以下に低下させた100〜200MPaでも耐熱性胞子Bacillus stearothermophilus(食中毒菌で最も恐ろしく、強い耐熱性を有するCl.botulinumよりも約50倍熱に強い)を4〜6桁以上殺菌することができた。 一方、大腸菌(Escherichia coli)を室温で400MPaに加圧後、瞬間除圧(操作時間=2分以内)することで完全に滅菌できた。またこれらの菌体を200MPa以下の低い圧力でも滅菌できることを実証した。この時の大腸菌細胞壁の膜酵素の挙動変化を検討した結果、瞬間除圧処理でTrypsinの活性が大きく阻害されていた。次いでα-glucosidaseの活性が低下していた。また次のような膜酵素の一部が阻害を受けた(β-glucosidase、Naphthol-AS-BI-phosphohydrolase、Phosphatase alkaline、Esterase Lipase、Valine arylamidase、Esterase)が、β-galactosidase、Leucine arylamidaseの二種類の酵素は、400MPa2分間処理の様な短時間処理では圧力障害を受けなかったが、この実験で下記のことが明らかになった。即ち、高圧実験で一般的に行われている静的な加圧方法よりも、この研究で行った瞬間除圧のような動的な手法が微生物の殺菌は勿論、酵素の失活においても遥かに優れていることを実証した。
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