牧草に含まれるリグニン及びリグニン・糖結合体(LCC)は、反芻家畜による細胞壁多糖の分解・消化を阻害する。従って、反芻家畜による牧草栄養成分の体内利用率を向上させるためには、反芻家畜の消化器官、とくにルーメンにおけるリグニンの分解に寄与する微生物叢の作出が必要である。こうした点を背景として反芻家畜ルーメンジュースからのリグニン分解性微生物のスクリーニングを行った。スクリーニングのため、前年度に引き続き非フェノール型ベンジルエーテル2量体(VAU)とβ-O-4型リグニンモデルのベンジル位に蛍光物質を結合させた3量体(GGU)、GGUをジアゾエタンでエチル化した非フェノール型3量体GGU-ET、ならびにGGUをコニフェリルアルコールの脱水素重合物に結合させた高分子モデルを合成した(F-DHP)。次に、これらのマーカーと黒毛和牛のルーメンジュースを種々の抗生物質存在下で反応させた。その結果、非フェノール型2量体(VAU)はバクテリアによって分解されるが、非フェノール型3量体(GGU-ET)は抗生物質の存在の有無に関わらず分解しないことが判明した。また、GGUの分解実験からフェノール型3量体のベンジルエーテルを開裂する真菌およびバクテリアの存在が明らかとなった。さらに、フェノール型と非フェノール型ベンジルエーテルをもつF-DHPにおいてもベンジルエーテル結合の解裂が認められた。この結果は、高分子であるリグニンやLCC中のフェノール型ベンジルエーテル結合の開裂活性をもつルーメン微生物の存在を示す。
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