ボツリヌス中毒症を分子レベルで的確に治療するための方法原理を確立する目的で、毒素分子の重鎖と抗軽鎖抗体のキメラ分子を作製し、その分子特性を解析して、分子治療法の可否を判断する。 1) 抗軽鎖抗体F(ab′)_2と毒素重鎖によるキメラ分子の合成 軽鎖抗体F(ab′)_2と毒素の重鎖とを会合させたキメラ分子を合成した。このキメラ分子の比中和活性は、素材として用いた抗軽鎖抗体の約2.5倍であった。 2) モノクロナール抗体を用いたキメラ分子の調整 毒素の軽鎖に結合して中和活性を示すモノクロナール抗体を調製し、毒素重鎖と会合させてキメラ分子を合成したところ、回収率が10%に向上し、比中和活性もポリクローナル抗体を使ったものより約3倍高くなった。同型重鎖の連用による抗体産生を避けるために、異型毒素の重鎖をキャリアーとして用いた場合も、ほぼ同じ中和活性を持つキメラ分子が得られた。 3) 毒素結合フラグメントの調製と体内動態の解析 結合フラグメントは、重鎖と同じ体内動態を示したが、毒素阻害活性は異なっていた。 4) 結合フラグメントと抗軽鎖抗体とのキメラ分子の調製 抗軽鎖ボリクローナル抗体を結合フラグメントと会合させたが、会合率が0.1%以下であった。比中和活性は、遊離のものに比べて約1.5倍であった。このことから、キャリアーには重鎖のN末端が必要なことが分かった。 5) フュージョンプロテインの調製の試み 遺伝子工学的にフユージョンプロテインを開発する目的で、重鎖の遺伝子を大腸菌に導入し、重鎖蛋白質の発現と培地中への遊離を試みたが、重鎖を活性のある形で抽出することができなかった。 6) キメラ分子のキャリアーの検索 キメラ分子を効率的に作用部位に運ぶために、毒素分子に結合する血清タンパク質を検索した。血清中のキチン結合性タンパク質が、毒素の活性を上昇させた。
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